肺の機能に関する疾患が疑われたら・・・
肺の機能を調べる検査に「肺血流シンチグラフィー」があります。
その仕組みを紹介します。
肺の血流を調べる肺血流シンチグラフィー
肺には数十億の毛細血管があります。その毛細血管の役割はガス交換です。
ガス交換の仕組み
息を吸い込むと、肺胞と呼ばれる肺の中にある袋に空気がたまります。その空気のうち20%は酸素です。その酸素は毛細血管によって血液中に取り込まれます。そして血液からは二酸化炭素が取り出され肺胞にたまります。
息を吐くとこの二酸化炭素を含む空気は外に排出されます。この繰り返しが呼吸です。取り込まれた酸素は血液に溶け込んで体中に配られます。
日本人に増えてきた血栓塞栓性の疾患
ここ数十年のうちに日本の食事は欧米化が進み、特に油を使った料理が多くなりました。
そのためコレステロールなどの脂質が血液中に多くなる脂質異常になる人が増えています。脂質が多くなると血管壁にプラークができやすく、また破れた血管壁によって血栓が生じます。
血栓は血流にのって流れていきます。血栓が心臓より頭側の血管で作られれば最終的には脳の血管に詰まり脳梗塞を引き起こし、心臓より下側で作られれば最終的には肺の毛細血管に詰まります。
血栓が引き起こす肺の疾患
肺の血管は木の枝のような構造をしているため、根元が詰まるとその先の枝分かれしている血管すべての血流が遮断されます。この状態を「肺血栓塞栓症」といいます。
血栓は早期のものであれば、血栓溶解剤などを使うことである程度は溶かすことができますが、溶けないタイプの血栓や溶けても再び血栓化するものもあります。
詰まって6ヶ月以内のものは「急性肺血栓塞栓症」、それ以降のものは「慢性肺血栓塞栓症」と呼ばれます。
心臓の構造と心筋
心臓には右室、右房で形成される右心系と左室、左房で形成される左心系があります。
左室は体全体に血液を送り出します。対して右室はすぐそばにある肺に血液を送り出します。そのため、圧力は少なくてすむため、もともと肺動脈の血圧は低めです。
心臓の構造をみても分かりますが、右心系は小さく送り出すのに必要な筋肉(心筋)も左心系に比べると薄くなっています。
肺塞栓症と心筋
肺血栓塞栓症になると、詰まった部分の血流が遮断されるため肺全体のガス交換の量が減少します。
その分を補うため心臓は肺に流す血液の量を増量します。すると肺動脈の血圧が上がります。もともと肺動脈の血圧は低めだったので右室はがんばって血液を送り出します。
すると、右心系の心筋は発達して筋肉モリモリになります。これでめでたしとはなりません。
筋肉がつくと柔軟性がなくなる
心筋が厚くなると、伸縮性が低下してしまいます。血液を送り出すには右室が小さくなったり、大きくなったりする必要があります。伸縮性がなくなるということは、このポンプの働きが弱くなるということです。
この状態が進み心筋がどんどん厚くなると、最終的には心不全となることがあります。重篤にあると心臓移植が必要になることもあります。治療のためフローランという心筋が厚くなるのを抑える薬が使われます。
またこのような重篤な状態になる前に肺動脈をカテーテルや手術で広げたり、肺移植が行われることもあります。
肺血流シンチグラフィー
肺塞栓の状態を診断するために行われるのが肺血流シンチグラフィーです。
ガス交換がうまくいかないと血液中の酸素量が低下します。この原因が、肺血流に問題があるのか、空気の入る肺胞に問題があるのか、または別の問題があるかを調べるために行う検査です。
また、肺癌などの肺の摘出術や肺移植の前後で肺の血流の評価を行う場合もあります。
使われる放射性医薬品
肺血流シンチグラフィーには、MAA(大凝集ヒト血清アルブミン)が使われます。
MAAは99mテクネシウムという放射性核種を含む放射性医薬品です。MAAは静脈注射によって体内へ投与されます。血液と混ざったMAAは血液中の成分と結合して小さな粒となります。
この粒は肺の毛細血管の径より大きいため、肺の毛細血管に詰まりそこにとどまります。
血流が多ければ多くのMAAが詰まり、血流が少なければ少ししか詰まりません。
MAAから放出される放射線を特殊な装置でとらえることで、MAAの分布や量を知ることができます。これが肺血流シンチグラフィーの原理です。
肺血流シンチグラフィ検査について
検査は放射線管理区域内の核医学検査室で行われます。¥MAAを投与後、SPECT装置という特殊な検査装置で撮影を行います。
検査時間は施設によっても違いますが30~40分です。
SPECT装置を体に近づけて撮影が行われます。音もほとんどしない静かな検査です。寝てしまっても問題ありません。
塞栓症疾患と肺血流シンチグラフィー
肺の血管は先に行くほど枝分かれしているため、血栓によって塞栓があるとその先は扇状(くさび状)に欠損して観察されます。
塞栓症疾患と占拠性病変
肺の疾患として多いのが肺癌です。肺癌には肺の毛細血管は存在しません。そのためMAAは集まらないため欠損して観察されます。
肺換気シンチグラフィ
ガス交換は肺の血流だけでなく肺胞の状態にも左右されます。肺血流シンチグラフィでは肺動脈の状態を反映した画像は得られますが、肺胞の状態はわかりません。そこで、肺換気シンチグラフィ-が行われます。
肺換気シンチグラフィで分かること
肺換気シンチグラフィ-には、99mテクネシウムを霧状にして吸い込む方法もありますが、現在ではクリプトンジェネレータを使ったものが一般的です。クリプトンジェネレータは水酸化ルビジュム(81Rb)を樹脂に吸着したものです。
この中を水分の含んだ空気を通すことでその水分にKrが溶け込みます。それを吸い込むことで、肺の中の肺胞内に入り込みます。
この状態で撮影を行うことで肺胞が正常なのか、空気を吸い込むスペースがあるのかを調べることができます。
精度の高い肺塞栓性疾患の診断のために
肺換気シンチグラフィは単独で行われることは少なく、肺血流シンチグラフィとセットでに行われることが一般的です。その二つの画像を比べることでより精度の高い診断が可能です。
一般的な例です(すべての例に当てはまる訳ではありません)
肺血流シンチで扇状の欠損
肺塞栓症または肺胞性病変の可能性
肺血流シンチで欠損+肺換気シンチグラフィで欠損
肺胞性の病変(肺気腫、肺線維症、肺炎、放射線肺炎)
肺血流シンチグラフィで欠損+肺換気シンチグラフィで正常
肺塞栓症の可能性が大
まとめ
肺血流シンチグラフィ、肺換気グラフィは、肺の機能を詳しく知ることができる検査です。
肺がんの手術前や肺高血圧症の診断にも行われることがあります。
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