乳癌検診とマンモグラフィー
最近のことですが、元女子プロレスラーの北斗昌さんが乳癌であることを告白し、その後手術を受けられました。多くのメディアに取り上げられ話題になりました。
最近、芸能人が癌や病気であることを公表し話題になることが多くなってきています。
多くの人に注目される芸能人が病気を公(おおやけ)にする理由にはいろいろあると思いますが、北斗さんの場合は、「乳癌検診の大切さを知ってほしい」という願いが込められていると感じました。
乳がんについて
乳癌は、その名のとおり乳房にできる癌です。乳房は、大きく分けて母乳を作る乳腺組織、脂肪組織、血管、神経などで構成されています。
乳腺組織はには、20個程度の「腺葉」があり、それが「小葉」に枝分かれします。
腺葉からは乳管と呼ばれる管が1本づつでていて、最終的に主乳管となって乳頭(乳首)に開口します。乳腺組織で作られた母乳はここから出てくることになります。
乳がんは乳腺にできる
乳癌は、母乳を作る部分である乳腺でできる癌です。乳腺組織の中の乳管や小葉などの細胞から発生します。
癌細胞が、乳管や小葉の中に留まっているものを「非浸潤癌(DCIS)」と言います。
乳管や小葉を包み込む膜を破って広がっていくものを「浸潤癌」と言います。
進行すると浸潤癌に変化することもある
非浸潤癌は病期が進行していくと、浸潤癌に変化する場合があります。
乳癌は一般的に進行が遅い癌といわれますが、癌のタイプや場所によって変わります。
非浸潤性の癌よりは浸潤性の癌の方が広がるのが早く、脇の下に近い領域(C領域)は、腋下リンパ節に近いためリンパ節転移しやすくなります。
乳がんの治療法
乳がんの治療法としては、乳癌を手術で取り除く外科的手術があります。
病変の範囲や乳癌のタイプによって部分的に切除する(部分切除)か乳房全体を切除する(全切除)かが選択されます。
その病院(又は医師)の方針なども手術方法を左右しますので、自分の希望とあわないときはセカンドオピニオンで他の病院(医師)にも相談してみましょう。
またホルモン療法も併用されることもあります。
年々増えて続ける乳癌
乳癌は日本人の女性にとって最も罹患率(発症の頻度)が高い悪性腫瘍です。
これらの数は年々増加傾向にあります。原因はさまざまあると言われていますが、食事の欧米化や晩婚化が大きな原因とも言われています。
2012年の統計では女性の14人に1人が発症し、年間1万2000人が亡くなっています。
しかしながら、乳癌の治療後(外科的手術、放射線治療)の生存率は高く、早い段階での発見と適切な治療が求められています。
子育て盛りに多い乳癌
乳癌の特徴として発症年齢のピークが他の癌と異なるという点があります。
乳癌発症は30代後半~40代後半がピークといわれています。これは、乳癌が女性ホルモンと大きく関係しているためです。
そのため若い世代での発症が多く、子供が成人する前に成長を見届けられず亡くなってしまう人が多いのが現状です。
乳癌の発見に向けて検診の見直し
従来は、乳癌の診断には視触診が行われていました。
視触診は文字通り、目で見る(乳房に引きつりや変形が無いか見る)、乳房を触ってしこりが無いか見る、というものです。
しかし、視触診で乳癌を見つけるには限界があります。触れたとしても乳房が大きい場合や乳癌の位置が深い場合は発見しにくくなります。
また、見た目で皮膚のひきつりが分かる場合はかなり進行している可能性があります。現在は視触診のみによる診断は推奨されていません。(自分で行うセルフチェックとしては推奨されています)
現在、医療機関で行う検査としては、マンモグラフィーがまず行われ、それに加えてエコー、MRI検査、生検などによって乳癌の発見、乳癌のタイプの判別などを行うのが一般的になっています。
マンモグラフィー
現在、日本で行われている乳癌検診ではマンモグラフィーが行われています。
乳癌の検出率、利便性、費用対効果などが優れているためです。
マンモグラフィーはマンマ(乳房)とグラフィー(画像)から作られた造語です。
X線を使ったレントゲン検査の一種です。しかし、胸部の検診などで行われる胸のレントゲン検査とは仕組みが大きく異なります。
レントゲン検査のしくみ
出展:働く保健室 How
レントゲン検査では、管球と呼ばれる部分から、X線と呼ばれる放射線が体に向かって放出されます。
X線は、体に当たるとエネルギーの一部が吸収され弱くなります。その後、X線は体を通過してX線フィルムに到達します。
X線フィルムは到達したX線が多いほど黒く、少ないほど白くなります。
例えば肺はほとんどが空気のためたくさんの放射線がフィルムに到達し黒く写ります、一方骨などはX線が多く吸収され、到達するX線は少ないため白く写ることになります。
つまり、X線写真ではX線の吸収の差が大きいほど、白黒が明瞭になり、形が見やすくなります
マンモグラフィーのしくみ
乳房でも同じことが言えます。乳房は、大きく分けると乳腺組織、脂肪組織に分かれます。
この2つは吸収の差が大きいためはっきり分かれて見ることができます。
もちろんある程度大きさがあったり、スピキュラと呼ばれる特徴的な形、癌組織の一部が変化してできる石灰化などがあれば発見することが可能です。
また、どの程度進んだ癌なのか推測する(カテゴリー分類)ことも可能です。
マンモグラフィーの限界
しかし、乳腺組織が多い若い人は、乳癌を見つけにくかったり、その他の疾患(乳腺症など)との区別が難しいことがあります。
特に日本人は若い人に乳腺が発達している人が多いため、乳癌の発見が難くなります。
質の高いマンモグラフィーが診断を左右する
ここで、大事なのは、写真の質です。実は、マンモグラフィーは写真の撮り方、放射線量、放射線の線質、画像化の方法(現像や階調設定)などによって見え方が全然違うのです。
つまり、ある病院のマンモグラフィーでは分からなかった病変が別の施設のマンモグラフィーでは分かるということが十分起こりえるのです。
マンモグラフィーは、ほぼ全ての病院で「診療放射線技師」が撮影を行います。
診療放射線技師の室がマンモグラフィの質を決める
診療放射線技師は、マンモグラフィーの撮影、装置の管理、画像を作る時のパラメータ調整など実務的なことを全て行っています。
一般的に診療放射線技師の仕事は、レントゲン撮影、CT撮影、MRI撮影、血管撮影、放射線治療の照射、核医学検査、胃透視検査、マンモグラフィー検査など多岐にわたっています。
その中でもマンモグラフィーは、技師の技量が写真の画質に大きく影響するといわれています。
具体的には、次の要因があります。
撮影時のポジショニング
圧迫の仕方
乳房にある乳腺組織と乳癌が重なっていると同じように写るため見分けがつきにくくなります。そのため、なるべく乳房を圧迫します。
そうすることで、乳腺と病変が分離されてわかりやすくなります。また、圧迫して乳房の厚さを薄くすることで、撮影に必要な放射線量が減り、被ばくが大きく減ります。
そのため患者さんが耐えられるギリギリまで圧迫する技術が必要です。
ポジショニング(体位)
乳房は、立体構造をもった球体です。その中の乳腺は、内側(胸壁側)まであるため、できるだけ、内側まで入れる必要があります。
単に圧迫しても可動性のある乳腺は、動いてしまい、すべてを写すことはできません。
そのため、撮影の時には乳房をひっぱり、外側に引き延ばしつつ、胸壁の近くにある乳腺まで写真に写し込みます。
これが不十分だと写らない領域(ブラインドエリア)ができてしまいます。そのため、撮影時にはとにかく引っ張って潰して撮るのが基本です。
また、乳房の皮膚にシワがよったまま撮影をすると写真にも写り込み、病変が見づらくなります。そのためにも注意深くシワを伸ばしながら圧迫する必要があります。
乳房は人によって大きさも形もまちまちです。短時間で正確に、痛がる患者さんに協力してもらいながらする必要があります。はっきり言って至難の業です。
マンモグラフィーの実際
乳癌検診では、時間的な効率も重要です。そのため腋窩を含め広い範囲を撮影できる内外斜位方向撮影(MLO)が行われます。
検診の結果、異常があった場合に行われる精密検査では、頭尾方向撮影(CC)も追加して行われます。その他必要に応じて拡大撮影(スポット撮影)が行われることがあります。
良い写真と言われる基準
現像に関して
以前はレントゲン写真と同じくX線フィルムが主流でした。もちろん今でもX線フィルムを使っている施設はたくさんあります。
現像に関してもっとも大切なことは、X線の吸収の差が小さい乳腺と乳癌をよりはっきり見えるように(差が大きくなるように)現像することです。
それには、現像する装置の管理(階調の調整、現像液の管理、メンテナンス)をしっかりする必要があります。
また、最近ではデジタル化が進み、フラットパネルやIPなどを使ったものも使われています(おおざっぱにいうとデジカメの様なもの)。この場合はコンピュータでの処理が行われますが、その処理の設定や工夫も画質を大きく左右します。
いずれにしても、撮影から現像まで高い技術が必要となるのがマンモグラフィーであり、写真の質が乳癌発見の大きな鍵となります。
そのために活躍するのが精度中央管理委員会です。
精度中央管理委員会
精中委は、1995年以降、厚生省(現厚生労働省)がん研究助成金研究班で検討されたマンモグラフィ検診の精度管理システムを実践したものであり、その業務は、検診の精度管理について検討し、その管理運営を行なうことを目的としている。
1997年11月、日本乳癌検診学会理事会において設置された。
精中委の構成は、日本乳癌検診学会が中心となり、関連6学会(日本乳癌検診学会、日本乳癌学会、日本産婦人科学会、日本医学放射線学会、日本放射線技術学会、日本医学物理学会)から推薦された委員より成り立っており、本委員会には教育研修委員会、施設画像評価委員会、マンモグラム・レビュー委員会の小委員会が設置されている。
マンモグラフィーによる乳がんの検査には、
高い知識をもった専門の医師による読影(写真をみて病気を診断すること)と高い技術と知識をもった診療放射線技師によるマンモグラフィーの撮影が、必要不可欠です。
それに加えて、いつでも高品質のマンモグラフィーが取れる施設と装置が必要になります。
精度中央管理委員会では、
・医師に対して、定期的な読影試験の実施
・診療放射線技師に対して、定期的な講習会、筆記・実技試験を実施しています。
また、試験の結果から医師、技師の技術力をランク付けして認定しています。
〇日本乳がん検診精度中央管理機構HP「検診マンモグラフィ読影認定医リスト」
施設に対しても、実際の写真などや管理体制などから評価を行い施設認定を行っています。
これらの評価は1回限りではなく、ランクや評価の維持のため定期的な受験が必要となります。
いくら医療が高度に発達しても、結局は検査や治療を担当する人間の技量が結果を大きく左右します。
最近では、病院や病院のホームページに精度中央管理委員会の認定を受けている施設なのか、認定を受けている医師や技師が在籍しているかを表示しているところもありますので、参考にしてみてください。
正しい乳癌検査を受ける第一歩は正しい施設選びから
乳癌の検査は全国どこでも受けることができます。しかし、そのレベルは同じではありません。
もともと乳癌は、外科の領域です。そのため乳腺が専門ではなくても、乳癌の検査、治療を行っている病院、クリニックはたくさんあります。
乳癌を画像から診断するには、専門の訓練が必要です。また、精度の高い写真を撮るには、高い技術がが必要です。
現在のマンモグラフィの限界と新しい技術
最近、小林麻央さんはじめ多くの芸能人が乳癌と闘病されています。
特徴的なのは、乳癌検診をしっかり受けていたのに初期の状態で見つけることができなかったという点です。
なぜでしょう?
これには、日本人特有の特徴とマンモグラフィの限界が関係しています。
日本人に多いデンスブレスト
マンモグラフィでは、乳房の脂肪組織と乳腺は写真に写る濃度(色)が違うのでわかりやすく
乳腺と乳癌は濃度が似ている(白っぽい)ため違いがわかりにくいというのはすでに紹介します。
放射線技師は乳腺と乳癌の濃度差がくように工夫し、医師が診断しやすいようにしています。
しかし、それにも限界があります。特に日本人の若い世代(20~40歳)は乳腺が発達しているため、初期の乳癌を見つけるのは難しくなっています。
この乳腺が多い乳房をデンスブレストといいます。
欧米人は、脂肪組織が多く乳腺組織が少ない、乳腺が脂肪に置き換わるのが早いという特徴があるためそんなに問題にはなりません。
脂肪性、乳腺散在にくらべて、高濃度(デンスブレスト)は全体に乳腺組織が広がっており白っぽくなっています。この中に乳癌があっても見つけるのは困難です。
自分の乳腺濃度を知っておくことが大事
もし、あなたが乳癌の検診や検査を受けても、撮影した写真をみることはほとんどないか、診察時に一瞬見るくらいだと思います。
その時に乳腺濃度について医師に聞いてみましょう。そこで、「デンスブレスト」または「乳腺が多めです」と言われたら追加の検査が必要かもしれません。
追加の検査とは、エコー検査(超音波)などです。
デンスブレストはマンモグラフィでは全体が白く写り病変が埋もれてしまいますが、エコー検査では、見つけだすことができます。
※アメリカのいくつかの州では、マンモグラフィの際に乳腺濃度を患者さんに伝えることが義務付けられています。※北米における乳腺濃度通知に関する法制度
エコーだけでは不十分
だからといって検診をエコーだけで済ませるのは危険です。乳がんにもさまざまななものがあります。マンモグラフィーでしかわからないタイプのものもあります。また石灰化などマンモグラフィでしかわからない初期病変もあります。
マンモグラフィは必ず撮って、それにエコーなどを追加するのが鉄則です。
3Dマンモグラフィ(トモシンセシス)
一般的なマンモグラフィは、乳房全体を一枚の写真に写し込む2D撮影です。
これに対して、乳房を細かい厚さで何枚も撮影するのが3Dマンモグラフィ(トモシンセシス)です。
出典:宇都宮セントラルクリニック
重なりの少ない薄い厚さの写真が撮れるので、デンスブレストでも乳癌をはっきり写すことができます。
まだまだ、新しい技術であり導入している病院も少ないですが、今後期待される検査です。
どこの病院で検診や検査を受けてよいのか悩んだら
もちろん、もともと専門外でも勉強や訓練で高い技術をもっている医師はたくさんいますが、どこで検査をするのがいいのか一般の人が判断するのは困難です。
もし精度の高い検査や治療、セカンドオピニオンを希望するのであれば
・乳腺外科を受診する(大学病院や総合病院に設置されています)
・近くにある乳腺クリニックを受診する(乳腺の専門医が開業しています)
を探しましょう。ただし、今は受診希望者が殺到していますので、早めの予約をおすすめします。
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